安価で三題話書く


1: あをによし (2zooluYFw3) | 2014/06/01 23:28:24
お題>>5
2: 匿名かまってちゃん (PPOMHmx+BL) | 2014/06/01 23:30:04
ksk
3: 匿名かまってちゃん (NXaYFzkALC) | 2014/06/01 23:41:22
ksk
4: 魔法少女かまえ[]マギカ (4bCB4h3v_A) | 2014/06/01 23:44:36
ksk
5: 匿名かまってちゃん (ep71WTh0Zw) | 2014/06/02 11:56:09
俺(♂)とお前(♂)と秘密な日常
6: ムスカ (ZEBhVMATOA) | 2014/06/02 17:18:43
>>5
ぶはあwwwww
>>1に期待
7: 匿名かまってちゃん (s1nce9xve4) | 2014/06/02 17:20:52
ふじょしがわきますよ。あ、作者がふじょしだった。(嘲笑)
8: あをによし (O7OvG5V8Mn) | 2014/06/02 18:42:46
誰が誰を好きかだなんて大抵は見てりゃわかるもんだが、それにしたってコイツは分かりやすすぎる。

「まーさーきーくーん、次は三つ編みのあの子ですかー」

名前は知らない。と言うか、どうでもいい。

「い、いいやそそんなんじゃないって」

「ビンゴかよー……この前はポニーテールの子じゃなかったっけ」

「葛西さんだ! まあ、その……な」

好きな人がいると言われてな、とマサキは小さく言った。

やっぱりか、と思った。

やっぱりも何も、葛西さんとやらの好きな人は俺なんだけれど。

葛西さんを落とすのは実に簡単だったーープリント整理を手伝い、挨拶を欠かさず、時に笑いかけるだけで充分だったのだから。

男であるマサキが、男である俺に振り向いてくれるまで、俺はマサキの恋を潰し続けるのだろう。

とんでもなく歪んだ恋だなんて、分かっている。

分かったところで、やめられなんてしないけど。

とにもかくにも、俺はこの秘密を腹にかかえて日常を送るしかないのだ。

いつかマサキが落ちてくる、その日まで。
9: あをによし (O7OvG5V8Mn) | 2014/06/02 18:44:58
えー、初っぱなからホモだけどお題がお題だからしょうがないよね!

次のお題>>10
10: 匿名かまってちゃん (s1nce9xve4) | 2014/06/02 18:48:35
s野郎が貶める
11: 匿名かまってちゃん (qOhJ9GVdeN) | 2014/06/26 18:31:31
>>10
三題じゃなくね?
12: 火炎黒龍◆T62n7GfB8o (NRgnJkvAQe) | 2014/06/26 18:50:07
>>11
安価を三回とるんでない?
13: 匿名かまってちゃん (qOhJ9GVdeN) | 2014/06/26 20:02:03
>>12
それか
14: あをによし (OaW_qUPHt3) | 2014/06/27 00:43:09
レス来てたし再開するで

>>17
15: 匿名かまってちゃん (Th2WNZ8S6b) | 2014/06/28 19:50:01
KSK
16: 匿名かまってちゃん (j1rECtB3nh) | 2014/06/28 19:55:55
期待ksk
17: 金助 (lgCOczdbjO) | 2014/06/28 20:04:44
動物
18: あをによし (EjdFP_b0B_) | 2014/06/28 21:39:37
つぎ>>20
19: 青桐 (VgxKWdstpS) | 2014/06/28 23:22:07
ksk
20: 匿名かまってちゃん (j1rECtB3nh) | 2014/06/28 23:24:53
カーテン
21: あをによし (LEvLzahdqW) | 2014/06/29 23:22:46
「前髪は心のカーテンです」

いつまで経っても伸びっぱなしの前髪を切ってやろうとしたら、そんなことを言いながら彼女はもっそりと逃げた。布団にくるまったままで。

「サディストと言うのはただ単に傷付けるだけの野郎ではなく、相手の精神も肉体も全て貶め辱しめる位の技術を持った人の事です」と依然くるまったままで彼女は言う。

サディスト?

なんだそれ、と頭を捻らせていると、友人に行き当たった。最近急にサディストを気取り出した、痛い友人。そいつのことかと聞くと、布団がもぞりと一回動いた。肯定。

動物のように鋭いこいつは、人の本質をも見出だしてしまうらしい。本物も偽物も、マゾヒストもサディストも、正義も悪も、全て彼女の目の前には等しく晒される。

見えすぎてつらいから、目を前髪で覆うのだろうか。

それならば僕は、どんな風に見えるのだろうか。

あとで聞いてみようと思いつつ、僕は美容室の予約をしたのだった。

22: あをによし (LEvLzahdqW) | 2014/06/29 23:23:53
我ながら意味不明なりwwww

つぎ>>25
23: 匿名かまってちゃん (RUIznriKKg) | 2014/06/30 16:27:37
妄想の広がる話だな 好きだ
ksk
24: 匿名かまってちゃん (c+EWHw2_Dd) | 2014/06/30 19:12:31
>>23ありがとう

ついでに追加安価>>26>>27
25: 匿名かまってちゃん (Z+RJBALCPS) | 2014/07/01 00:30:27
26: 青桐 (5WVaD5iahH) | 2014/07/01 06:12:18
漁師
27: 匿名かまってちゃん (8QTRKXRAFd) | 2014/07/01 22:59:43
不思議
28: あをによし (Wd_+qLQk+R) | 2014/07/18 18:35:06
漁師は森の入口で立ち竦んでいた。

豊穣の神が棲む神域、この森はそういわれていた。普段ここは立ち入りを固く禁じられており、まして海に生きる漁師にはとんと縁の無い場所だった。

ではなぜ、漁師はここにいるのか。

漁師にも分からない。
ーー否、ここに来た「経過」は分かる。
分からないのは、ここに立たされている「要因」だった。
29: あをによし (Wd_+qLQk+R) | 2014/07/18 18:45:24
くそ、途中送信しちまった


豊穣の神は文字通り豊穣をもたらす。
その恩恵の代わり、人間は生け贄を捧げねばならない。
ただ単に、「生け贄に漁師が選ばれた」だけだ。

頭ではそう理解しても、なぜ美しい娘ではなく自分が選ばれたのかーーなぜ仲間たちは揃って自分を突き出したのかーーなんでなんでなんでーー
そんな思いが心に渦巻いていた。

刹那、獣の荒い息遣いが聞こえた。
漁師は本能的に恐怖する。

いま漁師は華美な衣裳の下に血が滲むくらいの浅い傷をあちこちに付けられていてーー生け贄はそうするのがしきたりらしいーー血の匂いにつられた獣が寄ってくるのは当然だった。

生け贄と銘打っておきながら、結局は獣に食われるのか。

嫌だ嫌だ、とでも言うように今さら歯の根が合わないが、もはや獣は牙を剥き出して漁師に噛みつこうとしていた。

嫌だ、漁師はブラックアウトする寸前までそう思っていた。
30: 匿名かまってちゃん (Wd_+qLQk+R) | 2014/07/18 19:11:48
次に漁師が目を開けたのは、天国でも地獄でもなく見知らぬ部屋だった。
こぢんまりとしているが、質素で落ち着く部屋だ。
いつの間にか変わっている服に首を傾げながら寝台から起き上がると、ちょうど誰かが入ってきた。

変わった男だった。
髪は黒く、瞳は虹色の虹彩に囲まれている。美しい訳ではないが、不思議と見ていたくなる顔だった。

「目は覚めましたか」
たぶん口を開けて男を見ていた漁師は、その言葉に慌てて頭を下げた。
「あの……ありがとうございます、こんな」
いいのです、男はにこりともせず言う。

唐突に、漁師はいままでの事を思い出した。
生け贄として差し出されたこと。
獣に食われかけたこと。

生きた心地がしない、漁師はそう思った。
漁師が押し黙っていると、男は何か汲み取ったのかぽつぽつと語り出した。



曰く、豊穣の神は生け贄など必要としていないこと。
厄介払い、食い扶持を減らすためのただの方便だということ。

漁師の顔がみるみる青ざめていくのを気遣ってか、男の語り口はゆっくりしたものだった。

「許せない」

ぽつりと漁師が漏らした呟きは、多大な殺意を含んでいた。
今すぐ村人を皆殺ししかねないほどに。
男は言う。

「復讐するならとめません。ただ、これを」

男が差し出したのは剣だった。
漁師が手にすると、それはどす黒く禍々しい剣に変わった。
漁師はその剣を掻き抱いた。吐き気がするほどの睡魔に襲われながらーー

2度目の暗転の寸前、ふと漁師は不思議に思った。
男の口の端がほんのすこしだけ、つり上がっている気がした。
31: 匿名かまってちゃん (Wd_+qLQk+R) | 2014/07/18 19:19:04
漁師が深く眠りこけたのを見届けると、男は高く笑った。

男はただの魔法使いだった。ただ、草木を操り天候を意のままに出来る以外は。
その能力に目をつけられ、ここに閉じ込められて豊穣の神として祀り上げられたのだ。
それでも、妹を人質にとられしぶしぶ従っていた。
散々陵辱されなぶり殺された妹の遺体を生け贄として送りつけられるまでは。

復讐の目は植え付けた。
あとは上手く育てるだけだ。
どす黒い、綺麗な赤い花を咲かせるように。
ちょうど草木を操る時のように、哀れな魔法使いはうっそりと笑った。
32: 匿名かまってちゃん (Wd_+qLQk+R) | 2014/07/18 19:20:32
誤字 目→芽

すごい厨二病やんwwww

次>>34>>35>>36
33: 匿名かまってちゃん (k_RAl5TSc+) | 2014/07/18 19:32:35
おつかれ
ホモ展開かと思った……
34: 匿名かまってちゃん (e1KD3HXrMk) | 2014/07/19 10:11:44
35: 文芸部@ココアカプチーノ (mHohahHtPg) | 2014/07/19 10:24:37
牛蛙
36: 匿名かまってちゃん (JeIvgNeaKw) | 2014/07/19 11:12:02
溺死
37: あをによし (5q72aPUH9g) | 2014/07/19 18:38:55

娘が溺死してから三年経つ。

妻と離婚し、男手一つで娘を育てていこうと決心した矢先の事だったから、ひどく茫然としたことを覚えている。

丁度こんな月夜の晩に娘は沈んでいったのだろうか。私の手をすり抜けていった小さい手の感触をまじまじと思い出して、私は強く目をつぶった。

「こんばんは」

そうやって縁側で呆けていると、ふと奇妙な声がした。聞くからに愚鈍で、しかしはっきりと伝わる声だ。
声のした方にゆるゆると目をやれば、そこには蛙がいた。
牛蛙、と言うのだろうか。身体中どぶみたいな色をして、庭の岩の上にちょこんと座っている。

どうやら蛙が発したようだったので、私は、ああ、と返した。蛙が喋るとは思えなかったが、考えるのが面倒だったのだ。夢見心地でふわふわしている。

「丁度こんな晩でしたねえーー娘さんが、沈んだのは」

「お前、知っているのか」

私は目を見開いた。川辺に棲む蛙の事、知っているのは当然かもしれない。

「ええ、知っておりますよ。まだ小さくて、可愛らしい子でしたのにね」

「ああ、お前も、そう思うか」

あいつに似て。
声にならない声が聞こえて、私は気分を悪くする。

「しかし、あなたは何故、あの子を川に連れていったのです? 散々雨が降ったあとだのに」

「娘が、菜々子が行きたいと行ったから」

「あの子は水を怖がって、雨にさえ青ざめたのにですか?」

やはりこの蛙、知っている。


「あなたはあの子を川に突き落としたじゃあないですか」


蛙は私を見ていた。両生類特有の不気味な眼で、生ける者の公平な目で、ただ見ていた。

そうだ。菜々子は私が沈めた。忌々しい間男の落胤。あの女の血を継ぐ者。その証拠に、私にはさっぱり似てはいなかった。

「それが、どうした」

愛せるはずだった。例え血が繋がっていなくとも。そんなちっぽけな愛は、結局はあの雨に流されてしまったのだ。

「あの子があなたを呼んでいます。ほの暗い川の底で、あなたを」

「菜々子が」

「行ってあげたらどうですか」

「……そうだな」

私は夢想する。冷たいそこで、菜々子が手招きしている様を。

蛙の口車に乗ってやろうか。
そう思うと可笑しくて、くく、と笑った。

私は立ち上がる。たとえ菜々子がいなくても、多分私はあそこに沈まなければいけないのだ。運ぶ足は軽やかで、くそったれなこんな世界を一歩一歩蹴り飛ばす。

蛙はいつの間にかいなくなっていた。

38: あをによし (5q72aPUH9g) | 2014/07/19 18:40:35
もしかしたらこれは鬱展開ってやつじゃないのか……?

つぎ>>40>>41>>42
39: 匿名かまってちゃん (e1KD3HXrMk) | 2014/07/19 20:27:28
いい雰囲気だった
40: 匿名かまってちゃん (_X9k76v4DT) | 2014/07/19 23:20:48
怨念
41: 文芸部@ココアカプチーノ (Tkx8RIZja8) | 2014/07/20 01:26:21
スカイダイビング
42: 匿名かまってちゃん (VdQqg4s3nM) | 2014/07/20 02:52:09
レンチ
43: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 11:54:24

レンチが道端に落ちていた。
レンチとはネジをしめる道具である。会社員の俺には縁の無いものであるし、そもそもレンチが落ちていたって違和感はあるが不思議ではない。ので、俺はさっさと通り過ぎようとした。
そのレンチに、ぎょろりと目が浮かび上がるまでは。

俺は眼を擦った。寝不足で疲れているのかもしれない。不毛な残業のストレスで、少し頭がやられてしまったのかも。とにもかくにも、そんな怪異はないことを証明しようとしてまたレンチを見ると、今度ははっきりとそのギョロ目は俺を視ていた。

叫ぼうとした。声がでない。逃げようと後ずさったつもりだったが、どうにも足が動かない。それどころか、俺の手は俺の意志と無関係にレンチに手を伸ばしていた。
レンチをつかみ取る。変に生暖かくぐにゃぐにゃしているそれは、胸ポケットに納まった。


「どうしろって言うんだよ……」
我ながら情けない声で1人呟く。実際すでに半泣きである。
結局そのレンチを家に持ち帰ってきてしまった。しょうがないだろう、だって捨てようとすると尋常じゃない激痛が後頭部に走るのだ。

めそめそしていると、なにか微かな声が聞こえてきた。俺はじっと耳を傾ける。
「いやだなぐらないでれんちはいやしんじゃうしんじゃうしんじゃう」
「いやだったのにしんじてたのにしぬほどいやだったのに」
「ゆるさないゆるさないおまえもおまえも」

ぞわり、と背筋に恐ろしさが這い上る。
このレンチは人を殴り殺した物で、殴り殺されたものの怨念が取り憑いているーー普段なら一笑に付すところだが、レンチが目を剥いているこの状況でそれができるほど俺は図太くなかった。

ふと意識が遠のく。視界が三人称のそれになる。
俺の体は勝手に動きだした。向かっているのはどうやら旅行代理店のようだ。
契約したのはスカイダイビング・ツアー
らしい。

俺にはトラウマがあった。小さい頃、ビルの屋上から今は亡き母に突き落とされたのだ。幸いにも下に植え込みがあって、今まで生き永らえているが。
呪詛を吐く母の声を、吹き上げてくる風を、叩きつけられたときの、内臓が潰れそうな痛みを、今でも良く覚えている。

だから。
高いところから落下するなんて、

しぬほどいやなのだ。

いつのまにか体の感覚が戻ってきている。視界もいつも通り。ヘリコプターから落下する寸前になんて戻りたくなかった。
歯の根が合わない。腰にレンチがぶら下がっている。

レンチは目をひん曲げてわらっていた。

「しぬほどいやでしょう?」

そう言ったのが俺なのかレンチなのか、もはやわからなかった。
44: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 11:55:27
圧倒的っ……やっつけ仕事っ……!!

つぎ>>46>>47>>48
45: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 15:39:37
面白いな……何か仕事でもしてるの?
46: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 15:41:05
王水
47: 匿名かまってちゃん (kyosvhMc7o) | 2014/07/21 15:52:33
銀色のペンダント
48: 匿名かまってちゃん (6CuC1cvSKe) | 2014/07/21 16:06:31
天使
49: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 18:56:25
>>45
ありがとう。でもただの中学生です
50: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 18:58:05

外見と体裁だけは良かったから、寄ってくる女を適当にあしらって生きてきた。
時にはこっぴどいことも、およそ人道的でないこともやった。それでも女は尽きないので、こいつら馬鹿だなと思いつつ散々に食い散らかした。

ある時、そんな女の中の1人がこう言った。
「あなたって、なんでも溶かしてたらしこんでしまうのね。まるで王水みたい」
王水。宝石だろうが問答無用で溶かす劇薬。その劇薬は俺にしっくりきた、ような気がした。むろん口には出さなかったが。

だから、その女ーー椎名に手を出そうとしたのも、つっけんどんな態度が物珍しかっただけなのだ。

椎名なんて、それまでは視界にも入っていなかったのだから。

椎名は今時珍しいくらい堅苦しい女だった。
制服のスカートは膝丈、重たげな黒いおかっぱ。唯一例外なのは銀色のペンダントで、梅の花をあしらったデザインになっている。

そのペンダントが廊下に落っこちていたのは、うだる暑さが鬱陶しいような8月の事だった。

「これ、誰のだ?」
「あ? なんだそれ……あー、椎名のじゃね?」
「だれ、そいつ」
「あれだよ、あの座敷わらしみたいな地味女」
「ああ」

椎名はある意味で少し有名人だった。野暮ったい、嘲りの対象としての。

「椎名だっけ、そいつどこにいる?」
「たしか三組だから……理科室か、理科準備室じゃね? なに? 届けにいくの? このスケコマシ君は」
「まあな」
ぎゃはは、まじかよと笑う友人達を背に、俺は理科室の方へと向かった。

果たして理科準備室に椎名はいた。
黒いおかっぱをもさもさ動かして、何やら準備をしている。
「椎名」
椎名は振り返る。
「ほら、このペンダント」
「ああ、ありがとうございます」
椎名はそう言って手を伸ばした。

そのとき、なぜそんなことをしたのか良くわからない。
平坦な調子で、顔を染めもしない椎名に珍しさを感じたのか。
どうせ何をしても赦されると、馬鹿みたいな全能感があったのか。
こいつが後生大事につけている物をぶっ壊したらどうなるのか、興味があったのか。

いずれにせよ椎名が手を伸ばした先にはすでにペンダントはなく、代わりにぽちゃんと呑気な音が響いた。

「……へ?」

ペンダントは、ビーカーに入れっぱなしの液体の中に入っていた。

「大丈夫か、あれ王水だぜ。ごめんな椎名。わざとだけど」

顔がにやけているのがわかる。俺って下衆だな、と思った。もちろん王水なんて出任せだ。あんな危険な劇薬、そうそう置いてない。

だけど椎名は俺の言葉を聞いていなかった。俊敏な動作で勢い良くビーカーに手を突っ込んだのだ。

「おい!?」

こいつ何考えてるんだ。王水じゃなくたって、入ってるのは硫酸や塩酸かも知れないのに。

そんなことは気にもせず椎名はペンダントを取り出すと、俺に言った。

「王水だなんて、嘘じゃないですか。私の指、溶けてないもの」

その時の椎名の目は、これ以上無いくらい冷たかった。

俺は何故か、自分が欲しかった何かがそこにあるような気がした。俺が最低な野郎だって見抜いてくれるもの。それだけで、俺は救われる。

梅の花言葉は『高潔な心』。ああ、何から何までこいつにぴったりだ。

ペンダントを掲げた椎名は、俺には天使みたいに見えて、俺はヘラヘラ笑った。

『王水は銀を溶かせない』
不意に思い出した言葉は、今の状況に、アホみたいにぴったりだったので。
51: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 19:00:30
王道の少女漫画みたいな展開の上に意味がわからねーぜ!ヒャッハー!

つぎ>>53>>54>>55

あの……感想とか言ってくれると嬉しいやなんでもないです
52: 匿名かまってちゃん (kyosvhMc7o) | 2014/07/21 19:25:41
面白いですね
ksk
53: 匿名かまってちゃん (InBYHtgI1G) | 2014/07/21 19:40:53
日本十進分類法
54: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 20:55:01
リサージュ曲線
55: 匿名かまってちゃん (kyosvhMc7o) | 2014/07/21 21:00:04
パブロフの犬
56: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 21:38:29
少しずつ難易度の上がるお題
57: 匿名かまってちゃん (kyosvhMc7o) | 2014/07/21 21:40:10
でもこれ位は序の口……
58: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 21:40:20
>>49
中学生でこれは凄い
素直に尊敬するわ
59: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 22:27:38
これいじめだろwwww
60: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 22:29:01

日本十進分類法に則ってキチンと並べられた本たちは、見るだけで恍惚とするほど美しかった。
私は整理されたものが好きだ。図書室も理論も部屋も数式も、1つの綻びも無いようにされていなければ気が済まない。

だから、今目の前にいる椅子に座った男の事なんかちっとも理解できないーーはずだった。

この男は秩序を嫌う。
散らかった部屋に本を積み上げ、堂々巡りの理論を語り、矛盾だらけの数式をノートに書き付けないとおちおち生活もできない、そんな男だった。

私とは根本的に違う。水と油どころの話ではない。

私の存在自体が整然としているならば、この男はまるで破綻が服を着て歩いているような、そんな存在だった。

私は破綻を嫌う。
ではその破綻が実に整然としたものだったとしたら。

答えは簡単だ。
そんな存在は手放さない。

私は男を見る。
ブルブル震えている。無理もない、男にとっては毒虫で満ちた壺の中に放り込まれたようなものだろう。こいつのために整理したかいがあった。

時々もれるああ、とかうう、だかの呻き声の周波数は、きっとリサージュ曲線に表したら美しい曲線を成すに違いない。

ぞくぞくする。
こんなに整然とした破綻があるのだ。こいつはいつだって秩序に論理性をもった拒否をする。
理解できなくともいい。少なくともこいつは今、この上なく美しい。

今度はどんな所に連れていこうか。隊列をなした軍隊を見せるのもいいだろう。最大級に整理した私の部屋で、じっくりと話すのも良いかもしれない。

私は垂涎する。笛の音に味をしめた、パブロフの犬のように。
61: あをによし (giRDU8X2ut) | 2014/07/21 22:31:02
リサージュ曲線とか良くわかんなーい☆抽象的なこといってごまかしちゃったー☆

はいすみませんでした。私の頭だとこれが限界です。精進します。

つぎ>>64>>65>>67
62: 匿名かまってちゃん (kyosvhMc7o) | 2014/07/21 22:35:17
その文章力を参考に頑張ります
ksk
63: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 22:45:12
リサージュ曲線参考画像
http://imgur.com/JlgQ0I2.jpg
64: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 22:46:31
クラスノヤルスク
http://imgur.com/JlgQ0I2.jpg
65: 文芸部@ココアカプチーノ (xmQcQJZJnz) | 2014/07/21 22:48:28
>>64
画像いらない。

三題の安価は>>66、>>67にずらす
http://imgur.com/JlgQ0I2.jpg
66: 匿名かまってちゃん (Av+WgM6fNK) | 2014/07/21 22:50:09
貝の耳
67: 青桐◆g0GGa7edf8 (5zLyqRK2TZ) | 2014/07/22 07:43:12
山火事
68: あをによし (4KjPwnbX8w) | 2014/08/20 01:50:21
クラスノヤルスクから来たと言う彼女は、びっくりするほど綺麗な顔だった。

ロシア人と日本人のハーフだと言う彼女。堀の深い、繊細な顔立ちに、大きな黒い眼が嵌め込まれている。髪はどこまでも黒々としていて、まさにいいとこ取りって感じだった。

その黒い眼には、底知れない何かが渦巻いていてーーそこも彼女の魅力の1つだった。

どういうわけか冴えない僕は、そんな綺麗な彼女と親友になった。あくまで親友止まりだけど。

僕らは先生のハゲ頭の話や、梶井基次郎についての話、さらにはレモンについてなど色々な話をした。

けれどその日の話は他のどれとも違った。これまで巧妙に語られなかったーーもしくは騙られていたーー彼女自身の話だったからだ。


「私、向こうでは山に住んでたの」

伏し目がちな彼女も綺麗だ。

「とっても、幸せな日々だった。寒さは辛かったけれど、母さんのスープと、父さんの大きな手があればなんてことはなかったわ。そんな日々が、いつまでも続くと思ってた」

彼女の睫毛が震えている。

「ある日のことよ。私の住んでいた家は、山火事によって灰になった。残ったのは、私と、お気に入りのくまさんと、お母さんと、お父さん」

「私は、べつにそれだけで良かった。お母さんとお父さんはそう思わなかったみたいだけど……ほどなくお母さんとお父さんは離婚して、お母さんの親戚を辿って、日本に来たってわけ」

「お母さんとお父さんを責めるつもりはないわ。だって、悪いのは全部火だもの。火が幸せを奪っていったんだから。今でも火は嫌い。大嫌い」

途中、少し詰まりながら語り終えた彼女は、ふうっと肩の力を抜いた。



それから数日か経って、僕は貝殻を手にしていた。

「貝の耳、と言うのは知ってる?」

「知らないわ。何なの?」

僕は彼女に説明した。
貝は岩や海底にへばりついている時、ひたすら波の音を聞いていると言う。溜め込んだその音は、中身を失ったそのあとでも、殻に染み付いて離れない。
だから、貝殻に耳を当てると波の音がするのだ。

と言う説話を、「貝の耳」と言うらしい。どちらかと言うと迷信に近いその話を、彼女は興味深げに聞いていた。

「ねえ、その貝殻、貸してよ」

「いいよ」

彼女は耳に貝を当てた。

それを見て僕は、彼女の瞳に渦巻くなにかは、あの山火事の火なんじゃないかと思った。
火はごうごう渦巻き、彼女の記憶を、眼球を、幸せを、焼き付けているのだ。

貝の溜め込んだ波音に聞き入る彼女の眼は、とてもびいどろのように透き通っていた。
渦巻くものは見つけられなかった。
69: あをによし (4KjPwnbX8w) | 2014/08/20 01:53:23
貝の耳分かんなかったから自分で創作しましたてへつぇっぺりん

そして長らく更新してなくてすいません

クラスノヤルスクに山があるかどうかは知らん

次>>71>>72>>73
70: 匿名かまってちゃん (iqpydiiuH7) | 2014/08/20 12:55:42
貝の耳のお題出したの俺なんだけど、
コクトーの詩をちょっと間違って記憶してたんだぜてへつぇっぺりん

きちんとした日本語の文章だから読みやすくていいね
山火事と貝を関連させんの大変だったろうに……
71: 匿名かまってちゃん (SgpqrrIPjF) | 2014/08/21 13:02:25
青い
72: 匿名かまってちゃん (TeeL+EkPz0) | 2014/08/22 13:02:39
睡魔
73: 匿名かまってちゃん (4nazWZ8yjt) | 2014/08/22 13:07:37
ガラス玉
74: 匿名かまってちゃん (TMX38PsYQT) | 2014/09/11 13:19:19
あおによし最近見ないな。
やめたのか?
面白い人物でこのスレも面白いから続きが見れないのは残念。
75: あをによし (yIlAVn2Evq) | 2014/09/16 19:50:32

自分で寝れなくなってからもう随分経っている。

原因はわからないと医者は言っていた。心因性のものなのか、体がイカれてしまったのか。どちらにせよこのままではいつか倒れてしまうと言う。困った。

『原因がわからないのに処方するの、良くないんですけどねえ。でも、倒れてそのまま、って言うのが一番まずいですから』

妙に語尾が間延びした医師から貰ったのは、錠剤だった。サーファイアス何とか、という長ったらしい名前の睡眠薬。

『お大事に』

受付が美人な人だったので、ちょっとほくほくしながら帰途に着いた。


ぷちっと薬を出して、コップに水を用意する。この薬は大層まずいけれども、色は綺麗な青色だった。大層まずいけれども。
ばりぼりと噛み砕くと、五分ほどで睡魔がやって来る。布団に潜り込みながら、きっと睡魔は『睡眠薬なんかに頼りやがって』と青筋をたてているに違いないな、と訳のわからないことを考えた。


「不眠症なんだって?」

蝉時雨の降る構内である。講義を終えて、日光を避けながら移動していると、イズミに会った。どこから調達してきたのかラムネを飲んでいる。ビンを傾けるたびに、入っているガラス玉はカラコロと鳴った。

「うん」

「いつから」

「5ヶ月くらい前から」

イズミはこともなげにへえ、私と別れた頃だね、と言うと、ラムネを飲みほした。ちょうど今の彼氏と浮気していて、それがばれての破局だった。変わっていない。
イズミは言った。

「ねえ、このあと、私の部屋来ない」

どうせもう講義無いんでしょ。
イズミの胸元は汗ばんでいた。自分だって手汗が気持ち悪い。

「いいよ」

「ふうん」

これからイズミとよりを戻すことになるのだろうか、と思った。それと同時に、もうあの睡眠薬は必要ないだろう、とも。

久々によく眠れそうな気がした。

イズミの彼氏は、睡眠薬を噛み砕く事になりそうだが。
76: あをによし (yIlAVn2Evq) | 2014/09/16 19:51:44
リアルの方が忙しかった……生徒会選挙の時期ですね……

とりあえず書いたけど、ここ見てくれてる人いるんだろうか

ごめんなさい
77: 匿名かまってちゃん (Xoki+ALnuI) | 2014/09/16 21:12:15
見てる
78: 青桐◆g0GGa7edf8 (GbJ_spApwN) | 2014/09/17 08:35:03
>>76
生徒会でるのか。
剣道部っていってなかったっけ。
掛け持ち?
79: あをによし (T_YkJpc0lW) | 2014/09/17 19:03:46
>>78
そうですね、掛け持ちっす

いつ書けるかわからないけど安価>>81>>81>>83
80: 匿名かまってちゃん (Vce06A7EAM) | 2014/09/21 15:31:11
美少女ってコテハンつけてる人物よりあおによしの方が美少女そうな気がする。

言葉の節々から才色兼備そうな雰囲気が漂っている(真顔)
81: 匿名かまってちゃん (isxJBoo97G) | 2014/09/21 16:58:41
>>80
さては益田スレを知らないな


安価は「コスモス」
82: 青桐◆g0GGa7edf8 (nh+4Kza68H) | 2014/09/24 08:44:44
サラマンダー
83: 匿名かまってちゃん (CmzPQMuZN_) | 2014/09/25 06:43:33
84: 匿名かまってちゃん (uIZX6_0rOg) | 2014/09/25 07:11:47
>>5
まで読んだ
85: 漆黒の墮天使◆TJ2Dos8Hn1 (LBeX6U+bFO) | 2014/12/31 10:02:55
wktk
86: あをによし (whSeQs9X2t) | 2015/01/11 18:20:36
宇宙船は滞りなく進む。円滑に無機質に、僕と彼女を乗せながら。

「そう言えばさ、コスモスってあるじゃん」
「うん」
「確か英語で宇宙って意味じゃない?
壮大な名前だよね、あの花は」
「コスモスの語源はギリシャ語だ。その意味は「調和」や「美しい」。壮大でもなんでもない」
「物知りだなあ」

それきり僕らは沈黙し、モーター音だけが聞こえるようになった。

宇宙船が開発され、次いで重犯罪者の刑罰にM33系第2洸星が使われるようになって久しい。俗に「星流し」と呼ばれるこの刑罰は、遠い彼方の惑星で一生過ごすという重いものだった。

彼女は特等重犯罪者だ。
罪名はよく理解出来なかったけれど、星流しを課せられるというのは確実だった。
最後の情けなのか何なのか、特例で僕は行きだけ彼女に付き添うことを許されたのだった。

「時々はさあ」

嫌にのんきな声で彼女は言う。

「私の事思い出してね。空とか見ながらさ」

優しい彼女が何を犯したのかは知らない。理解したくもなかった。だって僕は、

「!」

思考を分断するブザー音、モニターに「到着」という文字。ここが目的地と言うわけか。

「じゃあね」

彼女は出て行ってしまう。

行かないでくれ。そこには君が憧れていたサラマンダーも怪獣もいない。美味しい食べ物だってきっとない。

第一、僕は君にまだ好きだって言っていないんだ。


言葉は発せられることなく押し込められ、既に彼女は去った。宇宙船には臆病な男が残されているのみだ。

オート・プログラムで宇宙船が地球に戻るまでの十分間、僕は顔を覆ってただ息をした。
87: あをによし (whSeQs9X2t) | 2015/01/11 18:21:07
もう間隔開けすぎて需要ないよねこれね……
88: 匿名かまってちゃん (35mYCXUR0q) | 2015/01/11 20:07:54
>>87
そんなことは無い。需要は高いゾ
89: あをによし (whSeQs9X2t) | 2015/01/11 21:22:17
>>88
ありがとう

つぎ>>91>>92>>93
90: 匿名かまってちゃん (35mYCXUR0q) | 2015/01/11 21:29:28
加速
91: 青桐◆g0GGa7edf8 (xVSURXpCCR) | 2015/01/11 21:51:48
サルミアッキ
92: 匿名かまってちゃん (35mYCXUR0q) | 2015/01/11 22:01:57
江戸端唄
93: 匿名かまってちゃん (2hsPtpHeDV) | 2015/01/11 23:41:48
空想


(いつも楽しみに読んでるよ)
94: あをによし (RVZI9T0T0x) | 2015/01/12 13:24:40
うわ、なにこれまっず。くそまずい。

先輩が渡してきたのはサルミアッキだった。世界一まずい飴。北欧あたりの品じゃなかったか? 友達に送ってもらったと言ってたけど、先輩の人脈どうなってんだろう。

「まずいか? おい、泣くほどまずいのか?」

「まずいですね。なんの不純物もなく確定的にまずいです」

普通泣いてる後輩にこんなもん差し出すだろうか。泣きっ面にサルミアッキだ。ろくでもない。

「そうか……俺は、美味しいと思ったんだけどな」

なんてことだろう。先輩は味覚もろくでもなかった。

「で、先輩」

「何だ」

「何で泣いてたのかとか聞かないんですか」

「聞いていいのか」

「ダメです。もし無神経な事を仰ったら空想の中でしか生きられない体にしてしまいますからね」

「よく分からないが怖いな」

実際できてしまいそうだからさらに怖いな、と先輩はのたまう。
本当にこの先輩は何しに来たんだ。
慰めに来たのかと期待した私が愚かだったのか。

「……今度江戸端唄を聞きに行こう」

「何ですかそれ。だから先輩は先輩なんですよ」

どうやら先輩は私を慰めようとしているらしい。不器用にも程があるが、そうじゃなきゃ先輩は人を誘うことなんてしないだろう。
いや、それにしても不器用だが。

三味線と人の声が合わさる事による江戸端唄のヒーリング効果を語り出した先輩に、私は来週末が空いていることを伝えた。
来週末を先輩と過ごすのもやぶさかではないのだ。

ただサルミアッキは本当にくそまずかったので、仕返しとして世界一臭い缶詰だと評判のシュールストレミングをプレゼントしようと思った。
先輩ならむしゃむしゃ食べてしまいそうではあるが。
95: あをによし (RVZI9T0T0x) | 2015/01/12 13:26:56
>>93
(ありがとうございます。嬉しさで前髪が吹っ飛びそうです\パァンッ!!!/)

気付いたら似たような話ばっか書いてるよ……

つぎ>>97>>98>>99
96: 匿名かまってちゃん (ObpmNkvBIN) | 2015/01/12 15:53:06
おもしろいです!
97: F (BvGEb51Ep1) | 2015/01/12 16:00:21
鬼太郎
98: 匿名かまってちゃん (9K5rZUIPsx) | 2015/01/12 20:00:23
虚数
99: 匿名かまってちゃん (brrVEXYxI2) | 2015/01/12 21:50:23
メイルブレッドウィナーモデル
100: あをによし (umanm1Iqax) | 2015/12/05 23:36:36
「つまり、あなたは虚数みたいな存在なんです」

目の前の少年は言った。

「どういうことでしょう」

私は片眉を上げて応じた。



その小さな客の来訪は数十分前に遡る。

窓の外は暗くなり始めており、そろそろ夕飯の準備でもしようかという頃合だった。頬杖を付きながらテレビを見ていると、インターフォンが鳴った。ぱたぱたと足音をたててドアへと駆ける。
誰だろう? 宅急便? それともお隣さんかしら。
しかし、どの予想も違った。甚だ見当はずれで、平凡だった。

ドアを開けた先には少年が立っていた。
昼と夜のあわい、夕方の似合う少年だった。
逢魔時。
ふとその言葉が過ぎった。
私は魔に逢っているのかもしれない。

「どちら様ですか?」

「ええ、僕はこういう者です」

手渡された名刺には、しかし解読できそうな文字は入っていなかった。

「すこし中でお話をさせてもらってもよろしいでしょうか」

「はあ」

実際の所、私は警戒心というものがいささか足りないのかもしれない。大抵はインターフォンを介さずにドアを開けてしまうし、相手が少年だというだけで警戒心を緩めてしまう。世間には事件も事故も売るほど起きているけれど、そのどれもが私にとって関係ないものだから、平和ボケしているのだ。でなければ、こんな時間にこんな怪しげな少年を家に上げたりしない。

結局その少年は家に上がり込んだし、私は紅茶と菓子まで振る舞った。

「それで、どういったご要件で?」

「はい。まず、あなたはメイルブレッドウィナーモデル──つまり、収入の全てを配偶者に頼り、家事全般を請け負っている──ええと、専業主婦ですね?」

「はい」

「では、あなたは今までの人生を振り返る事が出来るでしょうか?」

この少年は何を言っているのだろう? だが、招いた以上は付き合わなければいけない。私はこれまでを追憶した。小学校。中学校。高校。四年制の大学を出て就職し、夫と出会った。三年の交際を経て結婚。子供はいない。平凡で、でも順調な人生だ。

「ええ、まあ」

「」
101: あをによし (umanm1Iqax) | 2015/12/05 23:37:15
おっふ、途中送信してしまったぜ
102: あをによし (defuZCV8y5) | 2015/12/06 00:11:23
「わかりました」

少年はいつの間にか出した手元のボードになにか書き込むと、

「あなたは自分の名前を言えますか」

んん?
さすがの私も怪訝な表情をしたのだろう、少年は申し訳なさそうな顔をした。

当たり前じゃないか。名の無い人間なんて、少なくとも日本にはいないだろう。
そうだ。私には立派な名前があるじゃないか。私を私と定義付けるもの。個体識別番号以上の意味をもつそれ。

私の名前は──



私の名前は?



「……やはり言えませんか」

黙りこくる私に対して、少年は慈悲ぶかげに語りかけた。

「つまり、あなたは虚数みたいな存在なんです」

そして冒頭にもどる。

「たまにあなたみたいな存在が出来てしまうんです。統合世界は多層的かつ非常に複雑なので──バグが出てしまう」

「私がバグであると」

「あ、いえ、そんなつもりは。ただ、理論的にはあるはずなのに、実際にはそんなものは無い。そういう意味で、あなたと虚数は似ています」

ふうむ。
少年の話には承服しかねたが、名前も思い出せない身であるので異の唱えようもない。存在するのに居ない。私はそんな摩訶不思議なものだったのか。

「でも──その、お名前をお伺いしても」

「あ、やっぱり認識できませんでしたか。弱った、まだ当該還相に対応できてなかったか。『』です」

「はい?」

「『』です」

なにか高周波数の音を出したのかもしれないが、何も聞こえなかった。しょうがないのでこちらで名前を付けよう。

「では、鬼太郎さんとお呼びしますね」

「『キタロー』とは?」

「日本のキャラクターです。鬼太郎さんとそっくりの髪型をしています」

「はあ」

「たしかに私は名前を思い出せませんでしたが、これまでの人生は覚えています。私が虚数であるのなら、この記憶は一体?」

少年は少し考えてから言った。

「それは、ほかの誰かの人生をより合わせたものです。あなたの人生は普遍的で平均的なものではありませんか?」

「はい」

どうもこの少年の言うことは正しいようであった。非現実的ではあったが、名前が無いと言うことが決定打だった。

「私はこの場合どうなるのでしょう」

「多くの場合、抹消されます。バグなので──でも、少しくらいは誤魔化しが効きますよ」

少年は多分片目をつぶった。
もう一方の片目は前髪で隠れているのでわからないが。

「紅茶とお菓子、美味しかったです。あなたはどうしたいですか?」

私はあたりを見渡した。
小さい家だけれど、これからずっと暮らしていこうと夫は言っていた。一人で暮らすには広い家だ。台所にはまだ冷たい鍋が置いてある。私が消えれば、もうあの鍋を使う者はいなくなるのだろうか。
そう言えばまだ夕飯を作っていない。

「消えたくはないです」

そう言うと、少年はわかりましたと言った。



少年を見送ると、私はまた家に戻った。
慌ただしく夕飯に取り掛かりながら、今もどこかでバグは消えていくのだろうかと思った。世界は広いが、そう不寛容でもないらしい、という事も。

きっと夫はもうすぐ帰ってくる。世界に見逃された、名前のない虚数の妻が待つ家へ。
103: 人間◆zvNCAPGJlQ (tFif3Tetbf) | 2023/01/05 02:37:57
毎回TITLEが「安倍で晋三書く」に見えてしまう

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スレ:安価で三題話書く

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